投資の目的は、学ぶことと自分の好奇心を満たすため。 ー 柴田 陽


AngelBaseによる、エンジェル投資家インタビュー第三弾は、柴田陽さんです。

柴田陽さんは、1984年生まれの連続起業家です。学生時代に先輩と起業を経験したのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。バーコード価格比較アプリ「ショッピッ」や「日本交通タクシー配車」など、数々の「0」から「1」を生み出すサービスを手がけ、2011年5月に自身4社目となるベンチャー、スポットライトを設立。国内を代表するオンラインtoオフラインサービスである「スマポ」を生み出しました。2013年10月に楽天にバイアウト。Tokyo Founders Fundパートナー。




起業に興味を持ったのは偶然だった

ー 柴田さんが最初に起業したのはいつですか?

2005年、大学2年生の時です。当時入っていたビジネスコンテストを主催するサークル「WAAV」の先輩に誘われて起業しました。

ー もともと起業に興味があったんですか?

いえ、興味は無かったです。東大の語学クラスには、上級生が下級生の面倒を見る、スチューデントアシスタントのような仕組みがあるんですが、たまたま入学して最初のクラスの1つ上(当時の2年生)の先輩に、WAAVの人が多かったんです。それで興味を持ちました。テニスサークルにも入っていたんですが、それだけだとなんか「大学生っぽくない」じゃないですか。

ー え、そうですか?(笑)先にテニスサークルにも入られていたんですね。

そうです。もともと中・高でテニスをやっていたので、大学でもサークルに入ってみたんですが、それだけだと面白くないなと思って。

ー なるほど。柴田さんは経済学部出身ですよね。学部を選ばれたときも、起業に興味があったわけではなかったんですね?

はい。何がやりたかったんだろうなぁ・・、家族にも起業家や経営者はいないですし。あ、単純な興味ベースで答えると、中高生の頃は「参謀」みたいなのに憧れていたんですよね。諸葛孔明みたいな。歴史小説を含め、本をよく読んでいたので。

ー 渋いですね・・。ちなみに、中・高生の頃に読んで「この本が人生を変えた!」という本はありますか?

いえ、無いですね(笑)

ー 即答ですね(笑)では話を戻して、WAAVに入ったのも、最初の起業をしたのも巡り合わせという感じだったんですね。

そうです。偶然でしたね。

ー 最初の起業時は、いわゆる学生起業という感じだったんですよね。

はい。当時、「学生起業のカリスマ」と言えば、サイバーエージェントの藤田晋さんやライブドアの堀江貴文さんあたりでした。学生起業自体も、今ほど一般的でないにせよ珍しいというほどでもなかったんですよね。だからそういうノリで始めた感じですね。

初めての起業時に、エンジェル投資家の恩恵を受けていた

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ー すごいノリですね(笑)その当時、メンターのような方はいましたか?

いい質問ですね、これは他のインタビューで聞かれたことが無いです。それが、いたんですよね。WAAVの創設者で、金田喜人さんという人です。WAAVがつくられたのが1996-97年なので、10年ほど先輩にあたりますね。その方が、僕らにとって今で言う「エンジェル投資家」のような感じでした。

ー 実際に投資もしてもらっていたんですか?

出資もしていただきましたね。その方自身も、いわゆるビットバレー時代の起業家で、光通信のインキュベーション施設からスタートされて、出会った当時も会社を経営されていたので、よくメンタリングもしていただきました。そういう意味では、エンジェル投資家の恩恵を最初から受けていたと言えますね。彼自身は投資家というよりも「WAAVの後輩の面倒を見る」という感じで、例えばユーグレナの出雲さんを含む他の後輩にもメンタリングされていたと伺っています。

ー そんな方にサポートしてもらっていたんですか。すごい繋がりですね。

そう。ちなみに、アイレップの北爪さん、シナプスの田村さん、ラクスルの松本さん、クラウドワークスの成田さんあたりも皆WAAV出身ですね。

自分の能力に疑問を感じ、新卒でマッキンゼーに入社

ー 事業としては、BtoBのサービスをやられていたんですよね。大学卒業後に一度企業に入社されたのは何でですか?

最初の起業の事業はSEOですね。市場が伸びていたので業績も良くて、大人相手に「割とちょろいな」と思ったこともあったんですけど、「これは、本当に自分の実力なのか?!」と自分自身に疑いも感じていて。会社を続けず、新卒でマッキンゼーに入ったのは、よく20代前半の若者が感じるような、「自分がなんぼの者か知りたい、試したい」っていう、単純にそういう動機だったと思います。

ー なるほど。ちなみに、当時から接点のある同年代の学生起業家はいましたか?

学生起業時代から今でもずっと起業家を続けているという観点で言うと、シナプスの田村さんとか、リーディングマークの飯田さんあたりがいますね。

当時の学生起業だと、どうしても営業会社や受託事業になりがちだったんですよ。自分が不勉強だっただけかもしれませんが、当時はエクイティファイナンスをするのがすごく難しかったので、結局目先の生活費を稼ぐためにキャッシュを増やそうという意識が働きました。学生当時名前を知っているVCといえばGCP(グロービスキャピタルパートナーズ)でしたが、僕が知っているGCPの投資先はベーグル専門店の「BAGEL&BAGEL」くらいでしたし、どういう事業をすればVCが興味持ってくれるのかも全く想像できなかった。VCから資金調達をしている人も周りには一切いなかったので、そう考えると今の起業環境とは全然違いましたね。

起業家というよりも、発明家になりたかった

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ー 柴田さんが最初に売却されたサービスは「ショッピッ」でしたよね(2010年にIMJに売却)。

そうです。商品のバーコードを読み取ってECサイトで価格を比較し、商品を購入できるスマートフォンアプリです。

ー 当時のiPhoneに入れてよく使っていました。ちなみに、柴田さんは「プロダクトの人」というイメージがありますが、ショッピッのアイディアはどう生まれたんですか?

ありがとうございます。僕は小さいときから発明家に憧れてたんですよね。エジソンとかすごくないですか?かっこいいですよね。父親が研究者というのも、影響を受けているかもしれないですね。

ー 幼少期から、お父さんの研究室にはよく行かれてたんですか?

行きました。家でも望遠鏡を自作して星を撮ったりとか、微生物を培養して試薬で染めたりとかいろいろやってました。まぁ「エジソンかっけー」「ニュートンかっけー」と幼い頃から思っていましたね。

ー 面白いですね(笑)

だから、「これがあったら便利だな」って思うと、自分で作りたくなるんです。僕なりの翻訳ですが、現代の文脈に「発明家」を落とし込むと、結局「スタートアップの創業者・経営者」になると思うんですよ。今、もしエジソンが僕と同じ歳だったら、起業家になると思うんですよ。まぁ、彼は実際テック企業の元祖、ゼネラル・エレクトリックの創業者ですしね。

ー では、会社を大きくしていくというよりは、プロダクトそのものに興味があるんですね。

はい。プロダクトを成長させることでより多くの人に価値を届けることには強い興味があります。仰っている「会社を大きくする」というのが「従業員数を増やす」という意味であればあまり興味は無いですね。

自分はエンジェル投資家ではない

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ー ショッピッの売却(2010年)後、2011年に「スマポ」という別のサービスを作られていましたが、エンジェル投資家になったのはどのタイミングですか?

今でも、エンジェル投資家のつもりは全く無いんです。それは後ほど触れるとして、個人として最初に投資したのは一昨年(2015年)だったと思います。スポットライト(スマポの提供会社)を辞めてからですね。

ー EXITした時の楽天との関わり方や楽天を選んだ理由を聞かせていただけませんか?

M&A後もすごく真面目に経営してましたよ(笑)。楽天との出会いという意味では、O2Oをやりそうなところは日本で5〜6社しか無かったので、どこの会社とも接点はありましたし、協業の話もしていました。共通ポイントサービスは三大陣営に分かれて三国志のような感じになってしまっており、皆と中立的に外交するのは難しいかなとは以前から思っていました。
交渉力の観点からも、提携するなら、ある種「ALL or NOTHING」かなという感覚は持っていました。その中でも、楽天と提携した時に、ユーザーに対する価値が1番増すと思いましたし、楽天のコミットも高く条件も良かったので、意思決定しました。

最初の投資は渡米後、偶然の出会いからだった

ーちなみに、スポットライトを辞められてからアメリカに渡られてますよね?

そうですね。だから、1番最初の投資先はアメリカの会社でしたね。実は、TFF (Tokyo Founders Fund) で、僕がソーシングしている会社が10社弱くらいあって、その中で個人として投資している会社もいくつかあるんです。だから、投資先はTFFとして10件弱、それ以外で6件くらいですかね。

ー 公表できる投資先はどこになりますか?

リリースを出しているので言うと、まず建設現場の施工管理アプリ「ANDPAD」を運営しているオクトです。代表の稲田さんもWAAV出身なんですよね、だから彼が18歳の頃から知っています。純粋な日本のスタートアップはそれだけじゃないかな。あとはRegainを含むヘルスケア系2社、とかですかね。人望が無いんで、あんまり多く無いんですよ(笑)

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ー またまた(笑)最初の出資先はどこだったんですか?

1番最初は、米国のAgoloというAIの会社で、あらゆる量の文章について指定した文字数で要約を生成してくれるSaaSの会社でしたね。

ー どのように出会ったんですか?

楽天を辞めた後、サンフランシスコでなく最初にニューヨークに行ったんですよね。そこで、現地のアクセラレーターに出入りするようになって、その代表に紹介してもらって出会いました。偶然AgoloのCEOのが前職が楽天のエンジニアで、三木谷さんも初期に出資されていた関係で共通の友人も多かったので自然と仲良くなり、話を聞いているうちに「面白そうだな」と思って投資に至りました。

ー すごい偶然ですね、最初は紹介だったんですね。

アメリカでの投資は、紹介だったりアクセラレーター経由が多いですね。それから2年間で、計16社くらいに投資しました。




起業家の「やりきる力」を見ている

ー どれくらいの頻度で起業家から連絡がきたり、どのくらいの割合で投資実行に至ってますか?

投資をする割合は、会って話をする中の10分の1くらいじゃないですかね。エンジェル投資をしていること自体そんなに公言していないですし、人望が無いんで連絡は全然こないです(笑)

ー ちなみに、これまで投資した中で素晴らしいと感じた起業家はいますか?または彼らの共通点があれば教えてもらえますか?

そうですねぇ・・。なんだかんだ言って、実現力ですかね。もちろん、実現のアプローチの仕方は人それぞれなんですけど、何が何でもやりきる力というか、具現化する力というか。

ー 一度に、どれくらいの額を出資されることが多いですか?

500〜1,000万円くらいですね。

起業家として興味のあるジャンルに投資したい

ー どういうジャンルが多いですか?

ヘルスケア、人工知能、SaaS、とかですかね。さっき、「自分はエンジェル投資家じゃない」と言った心はですね、投資家として魅力的な事業に投資しているんじゃなくて、単に「起業家として興味がある分野だから」投資しているんですよ。だから、これらの領域って、起業家の好奇心として興味があるんですよね。でも、全部自分の事業としてやるわけにはいかないので、投資するのが次善の策というか。投資したら、色々分かるし学べるじゃないですか。もちろん、僕としても多少は手助けもできますし。だから、「起業家として興味のあるジャンル」というのがそもそもの投資基準ですね。

ー なるほど。最近はどういうジャンルに注目されていますか?

本当は、toCのサービスに投資をしたいんですけど、今は波が無いですからね・・。SNSとかって、皆もう飽きてるじゃないですか。マストドン現象とか良い例だと思うんですけど、もう皆SNSに飽きていますよね。起業家としては「次に何かくるだろうな」と思うので、非常に興味があるんですけど、僕にtoCのセンスがあまり無いので、面白いアイディアがあれば聞きたいなと思っています。コミュニケーションサービスだったり、メディアだったり。

今の起業家はビジョンのセンスが大事

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ーでは、例えば「AIのジャンルに投資したい」と思って、数社を見た結果、投資の決め手となるのはどんなところですか?

それも、「自分が起業家だったらチョイスするだろうな」という事業を選びますね。さすがに自分は挑戦しないけど、「自分がその立場だったらこれを選ぶな」と思うものです。というのも結局、事業が成功するかどうかは、市場選択とタイミングで8割くらい決まってしまうと僕は考えているので、「自分がその立場だったらこの市場選択とタイミングでやるだろうな」という仮説のもと投資をしますね。

ー 投資の際、創業者やチームも見ていますか?

創業者やチームはぶっちゃけ関係ないです。

ー えっ!

誤解のないように言うと、一定のハードルというのはあります。でも、一定のハードルを超えていれば、それ以上は起業成功率との相関は低いというのが僕の仮説です。そもそも成功する経営者のタイプも多様じゃないですか。起業家の友人を見ても、知れば知るほど十人十色の強みがあるなと感じますし。したり顔で「成功する経営者に共通する能力は〜〜だ」と言ってる人が居ますが、これまで納得感のある説明に出会ったことがありません。・・・などとプロのベンチャーキャピタリストに言うと冷たい目をされますけどね(笑)
そもそも、僕は人を見る目があまり無いので、たかだか数回のミーティングでその人が起業家として優秀かどうかなんて分からないんですよ。ま、キャピタリストはプロであって僕は素人なので別にこれでいいかなと。なので、ネガティブチェックの基準は高めに設定しますが、僕が「ダメだな」って感じる人じゃなければいいです。それでも僕が「この人ダメだな」って思っても成功している人もたくさんいますけどね(笑)

思い描いたビジョンに辿り着くための「センス」が重要

ー 次に、起業家のどんなところを見ているかも伺いたかったのですが・・。お聞きしても良いですか?

先程の「ダメじゃなきゃいい」というのを説明しようとすると、どのレベルの人から含めるかによって相当違うんですけどね。仕事もできなきゃダメだし、信用できる人じゃないとダメだし、センスも良くなきゃダメなんですけど・・。
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ー センスって言うと、事業のセンスですか?

事業も組織も数字も・・・まぁ全部ですね(笑)

起業家に対する昨今の要請としては、不確実な未来から事業機会を見いだすという役割を期待されている部分が大きいので、「ビジョンのセンス」というのは重要ですね。これは幼い頃から醸成された物事の見方にかかわるので、後天的に習得しにくいものかもしれません。想像力って言うんでしょうか。営業先も、メンバーも、投資家もときめくくらい十分壮大で、かつ、ギリギリ実現可能なビジョンが描けるかどうかが、その人のセンスなんじゃないかと思います。起業って、見切り発車の場面がたくさんあるので、石橋を叩いて渡るみたいな人は上手くいかないし、あまりに妄想を言う人も当然実現できず相手にされないので、それらを総合的に見てバランスの良い“センス”を持っている人ですかね。

ー なるほど・・。経験されているからこそ分かる、フィーリングのようなものもあるんですかね?

多分そうなんですけど、結局、「それが自分の投資判断の邪魔になっているかもしれないな」とも思います。例えば、スナップチャットが流行るとか、料理動画が流行るなんて、出たタイミングでは全然予見できなかったので、これらが仮に投資案件としてあったとしても絶対パスしていたと思いますし(笑)

ー では、「自分の中では納得できていないけど、数字がついているから投資をする」という場合もありますか?

大抵エンジェルが投資するフェーズは、そもそも数字なんてついてないことが多いですね、プロダクトがあったらまだ良い方ですし。それで言うと、個人的にはすでにプロダクトがあるものでないと投資はしたくないですね。だから、結局戻ってビジョンや人で判断するしかないんですけどね・・(笑)

ー なるほど、やはり人やチームも大事ということですね(笑)

そうですね、市場とタイミングを上手くチョイスできる「人」という感じですね。

何よりも市場選択とタイミングが大事

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ー 実際に柴田さん自身がこれまで起業されてきた中で、描いたビジョンの実現に向けたプロセスの設計などはどのように考えてこられたんですか?

実は、今回初めてじっくり考えているんですよ。これまでは、割とタイトに起業を繰り返してきたんですが、結局は市場選択とタイミングの方が大事なので、後先考えずに領域を決めるのは良くないって今更気付いたんですよね(笑)一度起業したら、上手くいっても、うまくいかなくても4〜5年はかかるんですよ。その間の頑張りによって3〜5倍くらいの差は生まれるかもしれないけど、100倍の差が生まれるとかは起こりえない。僕がやろうと、ザッカーバーグ並みの才能の持ち主がやろうと、ラーメン屋をやったたら、同じマーケットで100倍の違いは生まれないわけです。だから、マーケットを探す方が効率が良いと思うんですよ。そのため、「マーケットを探すのに時間を費やした方が良い」という仮説のもと、今はフラフラしているんですけどね。

ー では、今はリサーチをしつつ、仮説があれば検証している段階なんですね。例えば、それが自分にとって全く分からない分野であっても、どんどんその業界のことを学んでいくという感じですか?

そうですね。基本、自分が分からない業界にならざるをえないので。何でも選んで良いって言われると、また困っちゃうという点もあるんですけどね。

個人投資の目的は、自分の学びと好奇心を満たすため

ー そういう意味で、自分が「分からないけど興味ある」という分野に投資をされているんですね。

そうそう!まさにそうです。エンジェル投資家としての僕の投資の主目的は、「学ぶためと自分の好奇心を満たすため」なので。損するのは嫌いなので、お金はできれば返ってきて欲しいですけど、個人投資の結果が10倍になろうが100倍になろうが、解いてる課題が良ければ僕としては全く気にしないです。

お互いにとって、学びになれば良いかなと思っています。僕も彼らから学べるし、彼らも僕から吸い取れるものがあれば吸収してもらえたらと。

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さっきの市場選択とタイミングの話に戻りますが、事業やビジネスって課題解決じゃないですか。その対価として売上があがるという。つまり、それを因数分解すると、「どの課題を解くか」「どの解決策を選ぶか」の組み合わせでしかない。
今まである既存の課題を、既存の解決策で解決するというのは、もうすでに誰かが挑戦してきているので、どれも上手くいかないんですよね。今存在しないということは、誰かが挑戦したけど上手くいっていないというのが、僕の中での大前提なんです。

だから、例えば「昨日までは無かったけど、今日から課題になった」という課題か、「昨日まで無理だったけど、今日から可能になった解決策」を組み合わせるしかないんですよ。変化の背景要因として分かりやすいのは、技術的なイノベーションや規制緩和だったり、スマホが主流になるというマクロのトレンドだったりと色々あるんですけど、こういう前提条件に変化が起きた結果として、新しい解決策を課題解決に活かせれば、新しい事業のチャンスが出てくるという。何かしら前提条件に変化が起こっているというのは、良い市場選択、良いタイミングと考えているんですよね。

長年解決されていない課題にはそれなりの理由がある

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ー では、普段生活していて、「これは課題だな」と思うことをメモして、帰宅後に課題解決について思考を巡らせることもあったりしますか?

よく起業の教科書には日常生活の課題からアイディアを発想しましょうとか書いてありますが、自営業ならまだしもスタートアップの文脈では僕はこれは考えが甘いと思っています。僕も含め大抵の人が思いつく日常課題って、自分以外にも1億人くらいが思いついた課題であって、何の役にも立たないんですよね。今、解決されていないのにはそれなりの理由があるので、特段新しくもない方法で解決しようとしても難しいと思っています。
逆に、専門性の高い仕事の最前線で見つけた現場の課題であれば、気づいている人が少ないので価値があります。

ー 解決策側で、テクノロジーの変化をフックに、他の全然違う業界に当てはめてみようということも考えられているということですよね?

そうですね。テクノロジーのブレイクスルーで、解決策の種類が増えるというのも1つの大きなアプローチです。だけど、世の中を見ていると、規制緩和の方がよっぽど大きいインパクトを与えているように感じますね。例えば、「遠隔医療がOKになりました」というのは、テクノロジー的にはもともと実現可能だったけど、単純に、法律的な問題で可能になったという話なので、こっちの方が産業的には大きくなりやすいですよね。人材派遣や人材紹介業とか、昔は違法だった分野も一緒ですよね。だから、技術よりも、規制緩和の方が、産業を生み出すという点においては、短期的にはインパクトが大きいですよね。

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ー 以前、「2年のスパンでやっていると国内では1位になれるけど、世界で1位になるには、5年後や20年後に来るであろうトレンドの準備をするべき」のようなことをおっしゃってましたね?

はい。起業の回数を重ねていくと、当然「もっと大きいことに挑戦したい」「より良い発明をしたい」と思うので、どんどんハードルが上がるんですよね。これに対する1つの解決策としては、準備期間を少し長めに仕込むことで、リスクも高くなるけどそれなりに大きい発明に繋がる、と。なので、次は少し長めに仕込もうかなと考えていますね。これ、「Second Time Founders — The Sophomore Slump」に詳しく書いてあるので、興味があれば読んで下さい。

次の目標は、1プロダクトでグローバルで戦うこと

ー そこで少し気になったのですが、「日本の中だけでなく海外でも戦えるか」というのも日本のスタートアップにとっては1つの課題なのかなと思っています。既に何度かEXITされている柴田さんとしては、どう考えていらっしゃいますか?

そういう観点で言うと、「1プロダクトでグローバルで戦えるもの」というのが、次の起業において自分の中で課している目標ではありますね。

ー それは、日本の市場をある程度とってからという感覚ですか?

それだと厳しいと思いますね。今グローバルで挑戦している企業には上手くいって欲しいと思っていますが、少なくともWebサービスにおいてはこれまで日本で勝ってから海外を攻めるという企業は上手くいってないので。やるなら、最初から国内外の区別をつけずにやらないと、グローバルでも成功するのは難しいんじゃないかなと個人的には思っています。

ー なるほど。例えば、アメリカに定住して事業を始めるというのも考えられますか?

それもやれたら良いですけど、向こうでは採用が難しいですね。エンジニアの採用に日本の3倍くらいお金が掛かる場合もありますし。あとは社員の勤続年数も短いんですよね。平均1年半くらいで辞めちゃったりすると、特に初期フェーズでは何も作れないんです。良い人材採用の競争も激しいですし。特に、僕レベルの人間だと、全然採用力が無いので、向こうでやるというよりかは、こっちでプロダクトを作って、ある程度トラクションが出たり、シードの段階になってからグローバルにいくというのが合理的なんじゃないかな、という仮説はあります。仮説なんで、本当に合っているかどうかは分からないですけどね(笑)

起業家には数年後のアウトプットをイメージさせてあげることが大事

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ー 起業や事業をする際のご自身の強みは何でしたか?

コーディング以外一通りなんでもできるというのが強みかもしれません。バランスが悪くないというか。 あとは何のテーマに対しても聞かれたら自分なりの仮説はすぐにお答えできます。なんでもできるということが、良い経営者なのかは分かりませんけどね。

ー エンジェル投資家として、どのようなスタンスで起業家と距離を保っていますか?

性格としては、本当はハンズオンでやりたいんです。でも、僕が起業家で投資家に求めるのはその逆なんです。なるべく構わないで欲しいんですよね。そういう意味で、「僕からは働きかけない」というルールにしてます。求められたら答えるだけですね。
僕が起業家で投資家に求めるのは、「お金」と「人の紹介」の2点だけなので、そういう風に使ってくれるのがいいと思いますけどね。

ー 投資先の起業家からどんなことを求められますか?

人間、何でもアウトプットから逆算して考えたほうが上手くいくし、効率的ですよね?ただ、最初の起業だと、アウトプットがわからない。「2年後にこういう状態になっているよ」というのが分からないんです。言葉で分かっていてもイメージできないんですよね。それを助けてあげるのが一番役に立てると思っています。
大抵の起業家は皆賢いので、アウトプットさえ分かれば、そこから逆算して「今何しなければいけないか」は自身で考えられるんですよね。

ーなるほど。 他に、具体的に投資先へサポートした例を教えていただけますか?

例えば、オクトの例で言うと、僕もB2Bの開拓を前の会社でやっていたので、チャネル開拓の議論をよくしますね。
SaaSはいくつかの段階に分かれているんですが、まず最初はチャーンが低いというプロダクト価値を証明する必要があります。その次に、あるチャーンレートというか、ライフタイムバリューを前提として、それを満たす顧客獲得コストでスケール可能な開拓方法を考案しなければいけないという、チャネルスケーラビリティの課題が出てきます。これは、一回経験したことがないと予見しづらい課題だったりします。
例えば、どういうチャネルにするかによって、どういう営業マンを雇うべきかも変わってくるんですよね。コールドコールで訪問して大きいクライアントをクロージングするのであれば、馬力ある熟練の営業マンが適してますし、インサイドセールスでDMして電話するような場合だったり、形態的に、ドブ板営業営業するのか、代理店を使うのであったりと、違ってきますよね。
こういう風に、単価や業種業態で変わりますし、チャネル開拓にも色々あるんですよ。

日本のスタートアップでよくある問題は、訪問営業をしたら何社かに1社は絶対にとれちゃうんですよね。でも、それが実力かどうかは分からないし、その方法ががスケールするかも分からない。マンパワーで何とかさせようと、人をたくさん雇って営業させがちなんです。すると、1年くらい経って天井が見えてしまい、どうしよう、となる。
売上が上がると嬉しいので、1個のチャネルで上手くいくと、それをずっと続けてしまいがちなんですが、それがどこまでスケールするかは分からない。そういう議論やアドバイスは、投資先とよくやりますね。

生涯起業家であり続けたい

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ー 次も、自分で事業をやりたいと考えられていると思いますが、いつ頃になる予定ですか?

なるべく早くやりたいですね。僕自身、自分がエンジェル投資家だとは思っていないですし、個人投資はあくまで趣味だと思っています。好奇心を満たすためというか。

ー 最近手がけられているクラウドポートは、ハンズオンというか共同創業に近いですよね?

そうですね、あれはエンジェル投資には入れてないです。1人インキュベーション的な感じです。自分がやりたかったことと同じことを考えていたCEOに出会えたという感じですね。

ー それは、どれくらいコミットされているんですか?

ローンチ時のプロダクトは、ワイヤーフレームは全ページ一人で作ったしテキストの文言レベルまで見ていましたね。あとは採用、営業も頑張っています。

ー いくつかやりたいプロジェクトがある感じでしょうか?

そうですね。解決したい課題や、やりたいアイディアはたくさんあります。その中ですでに誰かがやっているのであれば、ご縁があれば投資したいですし、誰もやっていないのであれば、誰か一緒にやってくれる人がいれば、ぜひ一緒にやりたい。じゃあ「何でお前がやらないんだよ」って言われそうですね(笑)実は僕も、もうすでに仕込みの長いものを準備してるんですよ。これまでも、市場的に上手くいきそうなものをいくつか水面下でやってみて、上手くいかなそうなものは流したりもしてますね。

ー ちなみに、柴田さんの人生にとっての格言はありますか?

「命までは取られない」という古田敦也選手の言葉ですね。マッキンゼーのオフィスに色紙が置いてあって、心に響きました。どんな挑戦をしても、この現代では命まで取られることは無いんですよね。リスクなんて無いんですよ。

ー そんな人生を通して、実現したいことは何ですか?

生涯起業家でありたいですね。自分のアイディアをどんどん具現化していきたいと思っています。

ー 人に興味が無い・人との接し方が苦手と仰っていましたが、柴田さんは、実はとても人に興味を持たれているような気がしますね(笑)

そうかもしれませんね(笑)人の行動がポジティブに変わるのが楽しいんですよね。

ー 最後に、起業家へメッセージをください!



柴田さんへのお問い合わせや事業相談に関しては、Facebookメッセージよりご連絡ください。
https://www.facebook.com/yo.yo.shibata